2013年5月22日水曜日

集めた論文の覚書 [海洋窒素収支のバランスについて] Literature Review [Oceanic nitrogen budget]


「現在の海洋のグローバルな固定窒素収支(主に窒素固定vs広い意味での脱窒)は、バランスしているのか? していないのか?」という論争について。

Altabet (2007, BG) より引用
海洋固定窒素収支の同位体マスバランス計算

ここでいう固定窒素は、N2などガス態以外の形態の窒素(硝酸、亜硝酸、アンモニア、有機窒素など)を指します。もし「バランスしていない」(=失われる固定窒素の方が多い)派の値が正しいとすると、現在の状態が続いた場合、海洋固定窒素は3000年くらいで枯渇してしまう計算になります。地球の物質循環や気候変動を考える際に超重要な話なので、激しい議論が数十年間続いています。

また、バランスしている/していないの論争に合わせて、海洋固定窒素の滞留時間の見積もりも、大きく変動してきました。最近になるほど、短い滞留時間(=よりダイナミックな海洋窒素循環)を見積もる場合が多い印象です。

収支の見積もりの不確定性は、主に海洋堆積物での脱窒と遠洋域での窒素固定に起因します。どちらも溶存有機窒素も関係してくる話なので、個人的にも気になるところ。

海水中での脱窒フラックスは、限られた海域(アラビア海、東部赤道太平洋などの貧酸素水塊)がグローバルフラックスの大部分を占めるとされるので、推定値の不確定性がわりと小さいのですが、広大な面積で脱窒が起きている海洋堆積物ではそうはいきません。そこで、4-5番のような同位体マスバランスを用いたトップダウンな推定手法が用いられてきました。しかし最近、脱窒における窒素同位体分別について、海洋堆積物でも(91114番)海水でも(11番)、値の見直しの必要性が言われているので、まだまだ流動的なのが現状です。(あとアナモックス代謝における窒素同位体分別は??)

窒素固定フラックスに関しても、15N同位体トレーサーを用いた推定手法の問題点(813番)や、N*を用いた推定手法の問題点(10番)が、最近指摘されていて、従来の推定値はかなり過小評価だった可能性があります。

さあ、どうなる!?


<グローバルな収支の見積もり>

各陣営のよく引用される代表的な論文と、最近目についた論文をピックアップ。

Middelburg, J.J., Soetaert, K., Herman, P.M.J., Heip, C.H.R., 1996.
Global Biogeochemical Cycles 10, 661–673.
→海洋堆積物の変質モデルを使って、海洋堆積物での脱窒のグローバルなフラックスを算出。従来は12-89 TgN/yrと言われていたけど、230-285 TgN/yrとかなり増加して、インプット(90-293 TgN/yr)よりアウトプット(313-418 TgN/yr)の方がずっと多いという見積もりになった。

Gruber, N., Sarmiento, J.L., 1997.
Global Biogeochemical Cycles 11, 235–266.
N*という指標を海水組成分布から計算して、海洋固定窒素収支を見積もり。N*は、ざっくり言うと海水の硝酸塩とリン酸塩の濃度比全球平均からのズレで、脱窒が起こるとマイナスに、窒素固定が起こるとプラスにずれる。インプット(231±44 TgN/yr)とアウトプット(204±30 TgN/yr)は概ねバランスしている?

Codispoti, L.A., Brandes, J.A., Christensen, J.P., Devol, A.H., Naqvi, S.W.A., Paerl, H.W., Yoshinari, T., 2001.
Scientia Marina 65, 85–105.
→海水の固定無機窒素とリン酸塩の関係や過剰N2から、脱窒フラックスを計算すると、グローバルには450 TgN/yrにも達する? アウトプットがインプット(~250 TgN/yr)を大きく上回っていて、現在の海洋窒素循環は定常状態ではなく、HoloceneからAnthropoceneへの遷移状態にあるという主張。

Brandes, J.A., Devol, A.H., 2002.
Global Biogeochemical Cycles 16, 1120.
→海水の硝酸塩の窒素同位体組成の同位体マスバランスモデルから、固定窒素収支を見積もり。海水脱窒での同位体分別が約25‰で、海洋堆積物脱窒での同位体分別が約1.5‰だとすると、窒素同位体組成的に定常状態を保つには、海洋堆積物脱窒フラックスは約280 TgN/yrという計算になる。ボトムアップに推定した1番の値と概ね一致している。

Altabet, M.A., 2007.
Biogeosciences 4, 75–86.
→海水硝酸塩の窒素同位体マスバランスから、海洋固定窒素収支の変動について考察。海洋堆積物の窒素同位体組成記録からは、最近3000年間は収支はバランスしていたらしい。ただし10-100年スケールでの窒素欠乏/過剰の振動は起きていたかも。最終氷期から完新世にかけては、収支は大きく変化していたらしい。

Tim DeVries, Curtis Deutsch, François Primeau, Bonnie Chang & Allan Devol
Nature Geoscience 5, 547–550 (2012) doi:10.1038/ngeo1515, Published online 08 July 2012
→海水中の過剰N2濃度データから推定した全球海水脱窒フラックスは66±6 TgN/yrと、わりと低め。海洋堆積物脱窒と海水脱窒との比率に、同位体マスバランスからの推定値を採用すると、海洋全体での脱窒速度は230±60 TgN/yrになって、海洋固定窒素収支はバランスに近い状態?

DeVries, T., Deutsch, C., Rafter, P.A., Primeau, F., 2013.
Biogeosciences 10, 2481–2496.
N*と硝酸塩窒素同位体組成から、3次元海洋モデルを介して、グローバルな脱窒フラックスを推定。120-240 TgN/yrという推定値で、6番よりさらに低めで、海洋固定窒素収支はよりバランスに近い状態? 海水脱窒のフラックス推定値は6番とほぼ同じだけど、3次元的な空間分布を考慮すると、海洋堆積物脱窒/海水脱窒の比率が小さくなるらしい(1.3-2.3)。


<収支見積もり手法に関する最近の指摘>

Konno, U., Tsunogai, U., Komatsu, D.D., Daita, S., Nakagawa, F., Tsuda, A., Matsui, T., Eum, Y.-J., Suzuki, K., 2010.
Biogeosciences 7, 2369–2377.
15N同位体トレーサーを用いた窒素固定速度の算出について。固定された窒素は平均すると半分くらいはフィルター通過成分(この論文では0.7μm)にいっているという指摘。

Granger, J., Prokopenko, M.G., Sigman, D.M., Mordy, C.W., Morse, Z.M., Morales, L. V., Sambrotto, R.N., Plessen, B., 2011.
Journal of Geophysical Research 116, C11006.
→海洋堆積物脱窒での同位体分別が、硝化と脱窒の共役も考えると、けっこう大きいのでは?という、ベーリング海での研究からの指摘。固定窒素全体での同位体分別は6-8‰にもなって、4番などで仮定している「小さな同位体分別」とは反する結果。

Monteiro, F.M., Follows, M.J., 2012.
Geophysical Research Letters 39, L06607.
→北大西洋N*(硝酸塩とリン酸塩のレッドフィールド比からのズレ)の分布に、有機リンの優先的な無機化がかなり効いている可能性。もしそうなら、N*による窒素固定速度推定は3倍ほど過小評価かも?

Alkhatib, M., Lehmann, M.F., Del Giorgio, P.A., 2012.
Biogeosciences 9, 1633–1646.
9番と同様に、海洋堆積物脱窒による固定窒素全体での同位体分別は、4.6±2‰と、4番など従来の仮定値よりも高い値との指摘。St. Lawrenceでの研究。溶存有機窒素のフラックスも同位体マスバランスに重要らしい。

Kritee, K., Sigman, D.M., Granger, J., Ward, B.B., Jayakumar, A., Deutsch, C., 2012.
Geochimica et Cosmochimica Acta 92, 243–259.
9,11番など「海洋堆積物脱窒での同位体分別が意外と大きい」という論文が出てきて、「同位体マスバランスから算出すると海洋堆積物脱窒のフラックスがかなり大きい→収支はバランスしてない?」という話になりつつあったけど、これは逆に海水脱窒での同位体分別が意外と小さいという話(従来25‰→本論文10-15‰)。両方合わしたら結局相殺して、アウトプットのフラックスもそこそこに落ち着く感じだろうか?

Großkopf, T., Mohr, W., Baustian, T., Schunck, H., Gill, D., Kuypers, M. M. M., Lavik, G., et al., 2012.
Nature 488, 361–364.
→海洋N2固定速度の見直し。15Nで安定同位体ラベルしたN2ガスを気泡として海水に加える従来手法では、N2ガスが溶けきらず、N2固定速度を過小評価してしまうらしい。15N2で飽和した海水を添加する新手法では、従来の1.7倍の速度が得られた。

Dähnke, K., Thamdrup, B., 2013.
Biogeosciences 10, 3079–3088.
9, 11番と同様に、海洋堆積物脱窒による固定窒素全体での同位体分別が、4番など従来の仮定値よりも高い値との指摘。18.9‰もの窒素同位体分別!? バルト海での研究。

2013年5月17日金曜日

集めた論文の覚書 [海洋環境のC:N:P比について] Literature Review [C:N:P ratio in marine environments]


海洋環境(海水&堆積物)のC:N:P比について、面白いなと最近思った論文のメモです。

Deutsch & Weber (2012, ARMS) より引用
海水の硝酸塩濃度とリン酸塩濃度のクロスプロット
黒実線がN:P比=16:1で、破線が14.5:1

なるほどなぁと思ったのは、海水の栄養塩のN:P比を決めている要因について(1-3番)。栄養塩のN:P比(14.3:1)は、藻類の平均N:P比(Redfield比:16:1)にかなり近いことはよく知られていますが、そのメカニズムは単純ではなく、背後には実は様々なプロセスが働いていることがわかってきました。

海水の有機物のC:N:Pも興味深いです(4-6番)。深海の溶存有機物はかなり高い値を示しますが、無機化される画分は比較的低めでRedfield比にわりと近い値です(4番)。懸濁態有機物は、緯度によって大きく変化するパターンを示すことが、つい最近分かってきました(5番)。低緯度・貧栄養な海域でC/P比とN/P比が高いのは、シアノバクテリアが高い値を示すから? 例えばリンを含まない脂質の合成・利用が、そのメカニズムとして考えられています(6番)。

海洋堆積物中の生物地球化学プロセスとstoichiometryの関係にはまだ謎が多いのですが、最近では、微生物細胞のC:N:P比が測定されたり(7番)、同位体トレーサーの1細胞レベルでの取込率の違いが測定されたり(8番)。土壌とかと比較してみると面白そう。海洋堆積物中の有機物のC:N:P比も気になるところですが、有機リンに関する論文については、また別の機会に紹介しようと思います。


<海洋の栄養塩のN:P比について>

Deutsch, C., Weber, T., 2012.
Annual Review of Marine Science 4, 113–141.
→海洋のN:P比についてのレビュー。勉強になる。

Quan, T.M., Falkowski, P.G., 2009.
Geobiology 7, 124–139.
→様々な海域や湖の栄養塩のN:P比の比較。湖では非常にバラつくけど、深海では驚くほど一定。湖底や海盆の表面積で分けると、大きいほどバラつきが小さくなる傾向にある。(ちなみに論文のメインの主張は、堆積物d15Nで過去の水塊の栄養塩N:P比が復元できるとかそういう話)

Weber, T., Deutsch, C., 2012.
Nature 489, 419–422.
1番で扱っている話の続き。生態系&生物地球化学を考慮したGCMを走らせると、「藻類N:P比の多様性」「異なるN:P比の海域が海洋循環で結合すること」の2点が全球の海洋栄養塩N:P比分布に重要らしいことが分かった。藻類N:P比一定のモデルだと、栄養塩N:P比がずっと低くなってしまう。じゃあ他の時代ではどうだったんだろうというのが気になるところ。


<海水有機物のC:N:P比>

Hopkinson, C.S., Vallino, J.J., 2005.
Nature 433, 142–145.
→海洋溶存有機物(DOM)のC:N:P比。易分解DOMでは平均199:20:1で、Redfield比よりは高いけど、難分解DOMの平均値(3511:202:1)よりはずっと低い。なので、移流によるDOMのエクスポートでは、窒素やリンに比べて炭素の方が効率よく深海に輸送されると。

Martiny, A.C., Pham, C.T.A., Primeau, F.W., Vrugt, J.A., Moore, J.K., Levin, S.A., Lomas, M.W., 2013.
Nature Geoscience 6, 279–283.
→様々な海域の海水懸濁態有機物(POM)のC:N:P比。全球平均すると、C/N比もC/P比も、Redfield比より2-3割高い値になった。しかも緯度方向にかなり大きな変化するパターンを見せた。概ね、低緯度・貧栄養で高く、高緯度・富栄養で低い。海水から藻類細胞をソーティングして元素組成分析すると、特に貧栄養海域のシアノバクテリアで非常に高いN/P比、C/P比だった。

Van Mooy, B.A.S., Fredricks, H.F., Pedler, B.E., Dyhrman, S.T., Karl, D.M., Koblízek, M., Lomas, M.W., Mincer, T.J., Moore, L.R., Moutin, T., Rappé, M.S., Webb, E.A., 2009.
Nature 458, 69–72.
→様々な海洋植物プランクトン(シアノバクテリア&真核藻類)は、リンを含まない脂質を合成・利用して細胞のC:P比を高くすることで、リンに枯渇した環境に適応できる。


<海洋堆積物微生物のstoichiometry

Steenbergh, A.K., Bodelier, P.L.E., Heldal, M., Slomp, C.P., Laanbroek, H.J., 2013.
Environmental Microbiology 15, 1572–1579.
→貧酸素な堆積物でリン無機化が促進されるのに、微生物のC/P比が高いことが効いている? バルト海堆積物中から微生物細胞を分離して、そのC:N:P比を蛍光X線微小分析。C/N比はRedfield比に近い値(6.4)だったけど、C/P比は400と高い値だった。核酸量が変わっているのか、脂質の組成を変えているのか。

Morono, Y., Terada, T., Nishizawa, M., Ito, M., Hillion, F., Takahata, N., Sano, Y., Inagaki, F., 2011.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108, 18295–18300.
→海洋堆積物深部微生物の13C15Nを使った同位体トレーサー取込実験+NanoSIMSによる1細胞分析。アミノ酸以外の基質(炭素源はグルコース、酢酸、ピルビン酸など;窒素源はアンモニア)を加えた場合は、取込率はNC。アミノ酸を炭素&窒素源とした場合は、取込率はCN。高知のMさんら。

2013年5月11日土曜日

集めた論文の覚書 [クオラムセンシングと物質循環] Literature Review [Quorum sensing and biogeochemical cycles]


数年前から微生物間のシグナルのやり取りに興味を持ち始めて、そうしたプロセスが特に地球の物質循環に影響していると面白いなーと思って、ちょっとずつ勉強しています。今回はクオラムセンシング(Quorum Sensing)について、集めた論文をメモしておきます。

クオラムセンシングが海洋沈降有機物粒子の分解に影響?
Hmelo et al. (2011, Env Microbiol Rep) より引用

クオラムセンシングについては、例えば下記Websiteなどに分かりやすい解説が載っていますが、自分と同種の微生物の生息密度を感知して、それに応じて物質(細胞外加水分解酵素とか)の産生をコントロールする機構のことです。周りに仲間がたくさんいたら活動を頑張る、という微生物の戦略ですね。

物質循環との関係を論じた研究はまだ多くありませんが、特に医学系の微生物学分野などでクオラムセンシングはかなり研究されていて、レビューもたくさん書かれています(後半に目についたレビュー論文もメモ)。

今回は特にN-acyl-homoserine lactones (AHLs) という有機分子を用いたクオラムセンシングに着目しています。海洋環境だと、ウッズホール海洋研究所の人たちがここ数年精力的に研究している印象なので(2、3、5番の論文)、そのうち会って話してみたいところ。


DeAngelis, K.M., Lindow, S.E., Firestone, M.K., 2008.
FEMS Microbiology Ecology 66, 197–207.
→クオラムセンシングがプロテオバクテリアによる細胞外加水分解酵素の生成に重要で、土壌中の有機物無機化と窒素循環に重要らしい。

Hmelo, L.R., Van Mooy, B.A.S., 2009.
Aquatic Microbial Ecology 54, 127–133.
AHLsを介したクオラムセンシングが海洋環境中で働きうるかを調べるため、AHLsの海水中での分解速度を調べた。意外と遅いので、海洋環境中でもシグナル分子として働きうる。

Hmelo, L.R., Mincer, T.J., Van Mooy, B.A.S., 2011.
Environmental Microbiology Reports 3, 682–688.
2番の続き。海洋中の沈降有機物の加水分解に、バクテリアのクオラムセンシングが実際に影響している可能性。沈降有機物中のAHLsの検出と、AHLsを添加したインキュベーション実験。(個人的「この論文がすごい!」2011で年間第2位にした論文

Romero, M., Martin-Cuadrado, A.-B., Otero, A., 2012.
Applied and Environmental Microbiology 78, 6345–6348.
AHLsを分解してクオラムセンシングを妨害する働き(クオラムクエンチング)の酵素は、様々な海洋バクテリア培養株やメタゲノムデータに見られるらしい。

Van Mooy, B.A.S., Hmelo, L.R., Sofen, L.E., Campagna, S.R., May, A.L., Dyhrman, S.T., Heithoff, A., Webb, E. A., Momper, L., Mincer, T.J., 2012.
The ISME journal 6, 422–429.
→海洋窒素固定シアノバクテリア(Trichodesmium)が溶存有機リンを分解してリン酸塩を同化する代謝に、AHLsなどによるクオラムセンシングが効いているらしい。

Zhang, G., Zhang, F., Ding, G., Li, J., Guo, X., Zhu, J., Zhou, L., Cai, S., Liu, X., Luo, Y., Zhang, G., Shi, W., Dong, X., 2012.
The ISME Journal 6, 1336–1344.
→メタン生成アーキアでも、AHLsを介したクオラムセンシングが働いているらしい。バクテリアだけでなく原核生物全体で重要?


<クオラムセンシング一般のレビュー>

Miller, M.B., Bassler, B.L., 2001.
Annual Review of Microbiology 55, 165–199.

Waters, C.M., Bassler, B.L., 2005.
Annual Review of Cell and Developmental Biology 21, 319–46.

Keller, L., Surette, M.G., 2006.
Nature Reviews Microbiology 4, 249–258.

Steindler, L., Venturi, V., 2007.
FEMS Microbiology Letters 266, 1–9.

Jayaraman, A., Wood, T.K., 2008.
Annual Review of Biomedical Engineering 10, 145–67.

Von Bodman, S.B., Willey, J.M., Diggle, S.P., 2008.
Journal of Bacteriology 190, 4377–91.

Ng, W.-L., Bassler, B.L., 2009.
Annual Review of Genetics 43, 197–222.

Uroz, S., Dessaux, Y., Oger, P., 2009.
ChemBioChem 10, 205–216.

Dobretsov, S., Teplitski, M., Paul, V., 2009.
Biofouling 25, 413–427.

Decho, A.W., Norman, R.S., Visscher, P.T., 2010.
Trends in Microbiology 18, 73–80.

Decho, A.W., Frey, R.L., Ferry, J.L., 2011.
Chemical Reviews 111, 86–99.

Albuquerque, P., Casadevall, A., 2012.
Medical Mycology 50, 337–345.

2013年5月6日月曜日

集めた論文の覚書 [昔のN2O] Literature Review [N2O in the past]


2011年にHくんやIさんが開催したN2O勉強会で「昔のN2O」というお題でレビュー発表したことがあって、その時に紹介した論文(+α)を見返してみたので、メモしておきます。自分自身ではN2O(亜酸化窒素、一酸化二窒素)の研究はしていないけど、以前から気にしているテーマの一つ。


前半は、アイスコアを使った第四紀の大気N2O濃度復元と、その変動のタイミング・要因の謎について。N2Oの温室効果が重要というよりは、グローバルな窒素循環の変動の指標としてのN2Oの重要性。古気候古海洋学界隈でも知らない人も多い話題だけど、特に1000年スケール気候変動のメカニズムを考える上ではかなり重要だと個人的には考えて注目しています。氷中の微生物によるN2O記録の変質の問題(5、7番)はありますが、少なくとも3番などで議論している変動のタイミングの話は、様々なアイスコアの様々な時代で見られるシグナルなので、リアルなものだろうと思っています。

後半は、もっと昔(始新世、白亜紀、原生代)にN2Oの温室効果が果たしたかもしれない役割について。こういう研究には、環境の変動に対してN2O放出フラックスがどう応答するかのモデリングを、今後改良していくことが重要なんでしょう。

それぞれ年代順です。


<昔のN2Oの濃度変動の復元と変動要因>

Flückiger, J., Dällenbach, A., Blunier, T., Stauffer, B., Stocker, T.F., Raynaud, D., Barnola, J.-M., 1999.
Science 285, 227–230.
→過去1000年間や最終退氷期、最終氷期における大気N2O濃度を、アイスコアから復元。

Sowers, T., Alley, R.B., Jubenville, J., 2003.
Science 301, 945–948.
→過去106千年間の大気N2O濃度と、過去3万年間の大気N2Oの同位体組成を、アイスコアから復元。同位体組成を見ると、最終氷期最盛期(約2万年前)から完新世(最近約1万年間)にかけては、陸からも海からも同じくらい(約+40%)、N2O放出が増えていたらしい。

Flückiger, J., Blunier, T., Stauffer, B., Chappellaz, J., Spahni, R., Kawamura, K., Schwander, J., Stocker, T.F., Dahl-Jensen, D., 2004.
Global Biogeochemical Cycles 18, 1–14.
Dansgaard-Oeschger (D-O) events(約10-2万年前の最終氷期に約1000-2000年の間隔で繰り返し発生した急激な気候変動)の時に、大気N2O濃度の上昇が、大気メタン濃度やグリーンランド気温の上昇よりも数百年早く起きていることを指摘。つまり、大気N2O濃度上昇を引き起こした地域・メカニズムを特定すれば、D-O eventsのメカニズム解明につながるとして注目を集めた。

Spahni, R., Chappellaz, J., Stocker, T.F., Loulergue, L., Hausammann, G., Kawamura, K., Flückiger, J., Schwander, J., Raynaud, D., Masson-Delmotte, V., Jouzel, J., 2005.
Science 310, 1317–1321.
→過去65万年間の大気N2O濃度(&メタン濃度)をアイスコアから復元。しかしメタンに比べて、N2Oの復元はかなり断片的になってしまっている。

Miteva, V., Sowers, T., Brenchley, J., 2007.
Geomicrobiology Journal 24, 451–459.
→アイスコアによる大気N2O濃度復元では、時代によっては異常に高い濃度を示す「artifact」がよく見られるが、これは氷中のアンモニア酸化バクテリアの代謝によって、アイスコア中N2O濃度が上昇してしまっているためらしい。

Schmittner, A., Galbraith, E.D., 2008.
Nature 456, 373–376.
3番で指摘された大気N2O濃度の変動の時間差は、海洋循環の変動を考えるだけで説明できる? 大気海洋GCMによる研究。大西洋子午面循環の停滞が、海洋の硝酸や酸素の分布に数百年スケールで影響して、N2O生成に影響?

Rohde, R.A., Price, P.B., Bay, R.C., Bramall, N.E., 2008.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105, 8667–8672.
→微生物細胞の指標としてトリプトファンの蛍光を使って、アイスコア中の微生物細胞とN2O濃度を対応付け。微生物細胞が多いところでN2O濃度のスパイクが生じているらしい。

Schilt, A., Baumgartner, M., Schwander, J., Buiron, D., Capron, E., Chappellaz, J., Loulergue, L., Schüpbach, S., Spahni, R., Fischer, H., 2010.
Earth and Planetary Science Letters 300, 33–43.
→過去14万年間全体をカバーする大気N2O濃度の高時間解像度復元。3番で指摘された時間差も、さらに他のD-O eventsでも考察している。

Schilt, A., Baumgartner, M., Blunier, T., Schwander, J., Spahni, R., Fischer, H., Stocker, T.F., 2010.
Quaternary Science Reviews 29, 182–192.
→最近80万年間の大気N2O濃度復元の最新版。でもまだ連続的ではなく、記録は断続的。特に寒冷期はダスト飛来量が多く、N2O濃度の変質の問題が大きい。

Schilt, A., Baumgartner, M., Eicher, O., Chappellaz, J., Schwander, J., Fischer, H., Stocker, T.F., 2013.
Geophysical Research Letters. DOI: 10.1002/grl.50380
→最終氷期のN2O濃度記録の最新版。時間解像度を高めて、気候変動との関連を論じている。D-O eventsに伴うN2O濃度の変動は、Heinrich eventsの有無で異なるらしい。


<昔のN2Oの温室効果>

Buick, R., 2007.
Geobiology 5, 97–100.
→原生代(25-5億年前)に硫化物リッチな海洋(いわゆる”Canfield Ocean”)が広がっていたとすると、硫化銅が沈殿して海水中銅濃度が減少して、N2O還元酵素が制限されて、脱窒の際にN2まで還元されずにN2O放出フラックスが増加して、その温室効果が重要だったのではないかという仮説。アイディアとして面白い。ただし最近では、「原生代は二価鉄リッチな海洋が主で、硫化物リッチな海域は限られていた」という描像が主流になってきたので、話はまた変わるのかもしれない。

Beerling, D.J., Fox, A., Stevenson, D.S., Valdes, P.J., 2011.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108, 9770.
→温室地球だった5500万年前(始新世前期)と9000万年前(白亜紀後期)において、CO2以外の温室効果ガス(メタン、N2O、対流圏オゾン)が気候に与えた影響を、3次元地球システムモデルで計算。3種類のガスを合わせると、全球では2℃以上、高緯度では6℃以上の温度上昇をもたらしていた可能性がある。N2Oの寄与はそのうち2-3割ぐらい。

Roberson, A., Roadt, J., Halevy, I., Kasting, J., 2011.
Geobiology 9, 313–320.
11番のアイディアを、1次元大気化学モデルを使って定量的に考察。大気酸素濃度が比較的高ければ(>0.1 PAL)、原生代には大気N2O濃度は現在の15-20倍にも達しえたらしい。メタンの温室効果も合わせると、10℃もの温暖化をもたらしていたかも?

2013年5月4日土曜日

読んだ本まとめ 2013年4月 Book memo (Apr. 2013)


20134月に読んだ本の一言感想とリンク、印象的な一節の記録(Twitter+追記)。8冊。

『大学とは何か』(吉見俊哉 著)
『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上』(ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ 著:1-4巻)
『潮風の下で』(レイチェル・カーソン 著)
『スラムオンライン』(桜坂洋 著)
『火星の砂』(アーサー・C・クラーク 著)
『ジュラシック・パーク』(マイクル・クライトン 著:上下巻)
『東大教師 青春の一冊』(東京大学新聞社 編)
『ゴーレムの生命論』(金森修 著)